東大受験生の皆さん、お疲れさまでした!私も受験後は仮面元の大学を抜け出せるかどうかが大変心配でした。
私は受験では差し替えドイツ語の世話になったため、今年度分を解いてみました(正解が公表されないため、正しい保証はございません)。大問Ⅳについて大規模修正を行いました(2022/12/26)。
簡単に「差し替え」の説明を書いておきますと、外国語で出願時に英語を選択した人は、大問4,5限定で他の言語(独・仏・中・朝)を選択することができます。
差し替えると問題の分量がかなり減ります(重要)(英7P→他言語2P)。
差し替えドイツ語についての詳細は以下の記事もご参照ください。
2023年度のものはこちらです。
2021年度のものはこちらです。
問題
Ⅳ 次の文章を日本語に訳せ。
Man muss, wenn man von Nation spricht, zumindest zwischen zwei Verwendungsweisen dieses Begriffes unterscheiden. Die eine betrifft das, was man eine Staatsbürgernation, also eine politische Nation nennen könnte. Die andere Verwendungsweise bezieht sich auf so etwas wie eine Kulturnation oder eine ethnische Gruppe. Die Deutschen sind in einem Sinne eine Kulturnation, wenn man die Österreicher und die deutschsprachigen Schweizer, vielleicht noch die Elsässer und noch andere Leute außerhalb der Grenzen mit einbezieht. Wenn man dagegen von einer “deutschen Nation” spricht, kann man unmöglich alle diese zur deutschen Kulturnation Gehörenden mitmeinen.
Ⅴ
(A) 設問a)~c)の各文を、かっこ内の指示に従い、ほぼ同じ内容の文に書き換えよ。
a) Hier dürft ihr keine Wertsachen zurücklassen.
(ihrに対する命令文に)
b) Ich lerne viele Vokabeln, denn ich möchtenicht dauernd das Lexikon benutzen.
(umとzu不定詞句を用いて)
c) Gestern war der Laden geschlossen. Deshalb konnte ich das Buch nicht kaufen.
(接続法Ⅱを用いて1つの文に)
(B) 設問d), e)の日本語に相当する文をドイツ語で作文せよ。与えられた語句をすべて用い、必要な場合は語形を変化させること。ただし、与えられていない語句を用いてはならない。
d)その際には経済と安心のバランスが重要です。
die Balance, dabei, es, handeln, sich, Sicherheit, um, und, von, Wirtschaft
e)この問題は多くの科学者たちによって研究されてきました。
dieser, Frage, sein, untersuchen, viel, von, werden, Wissenschaftler
解答
Ⅳ 独文和訳
1文ずつ訳していきます。便宜的に番号を付しておきます。
(1) Man muss, wenn man von Nation spricht, zumindest zwischen zwei Verwendungsweisen dieses Begriffes unterscheiden.
まず文構造を把握しておきましょう。wenn~sprichtの部分がコンマで囲われていて、意味上でも副文であることは分かるでしょう。
和訳の際には、一般の人間を指すmanは訳さない方が自然な日本語になります。
Nationという言葉について話すならば、せめてこの用語(概念)の2つの使い方を分けなければならない。
(2) Die eine betrifft das, was man eine Staatsbürgernation, also eine politische Nation nennen könnte.
初めて本文を見ると、いきなり定冠詞と不定冠詞が連続して見えますが、実は違います。(3)の文と対比してみると、Die eineのeineは1という意味でとって「1つは」となります。
また、“was+(4格) betrifft”(~に関して)という表現にも注目します。
不規則変化表でもお馴染みの基本単語nennenには
①AをBと名付ける
②(例)を挙げる
という2つの用法があります。
1つは、「国家国民」に関して(である)。つまり「政治国家」を挙げることができる。
(3) Die andere Verwendungsweise bezieht sich auf so etwas wie eine Kulturnation oder eine ethnische Gruppe.
上でも述べたように、(2)と(3)は文頭の形から並列の関係であることに注意すると意味が分かりやすくなると思います。
なお、少々難しい熟語”sich auf ~ beziehen”(~に関係する)という表現が分からなくても、(2)と同じ構造の文章であることが分かれば、それらしい文章が書けると思います。
もう1つの使い方は、「文化国民」や「民族集団」のようなものに関連する。
(4) Die Deutschen sind in einem Sinne eine Kulturnation, wenn man die Österreicher und die deutschsprachigen Schweizer, vielleicht noch die Elsässer und noch andere Leute außerhalb der Grenzen mit einbezieht.
文構造としてはwennより前が主文、後が副文となります。“mit einbeziehen”(~を含む)という表現は難しいですが、「ドイツ人」という概念に対して、同じくドイツ語を話す「オーストリア人など」をどうするか、ということを考えると正解に近い表現が得られるはずです。
ここで”die Elsässer”という初見で分からないような名詞に対しては訳を与える方がよかったような気がしますが。
オーストリア人やドイツ語を話すスイス人、もしかしたらアルザス人や国境の外の人たちも含めるならば、ドイツ人はある意味で文化国民である。
(5) Wenn man dagegen von einer “deutschen Nation” spricht, kann man unmöglich alle diese zur deutschen Kulturnation Gehörenden mitmeinen.
前半部分の副詞節はあまり問題ないですが、後半部分が難しいです。実際に”mitmeinen”という単語を調べても意味が出てきませんので、前つづりを取った”meinen”(考える、意味する)を基に考えます。
[alle diese (zur duetschen Kulturnation) Gehörenden] mitmeinen.
上のように[]で囲った中に、さらに細かく説明する()部分で構成されます。すると「[]と考える」という構造になると推測されます。
この構造を推測した理由としては、Gehörendenという名詞は、動詞のgehören(属する)が現在分詞化で「形容詞の名詞化」で複数の形になったものであり、()前のdieserの変化形dieseから1格か4格の形ですが、1格はありえないため4格となり、上のように長い区間が[]で囲まれる塊となると考えられるからです。
もしそれに対して「ドイツの国民」について話すならば、そのドイツの文化国民へ属する人々すべてとして考える(意味する)ことは不可能である。
補足
この文章では2種類のNationとして、Staatsbürgernation,Kulturnationの2つが出てきます。前者は国家によって上から区分されたくくり、後者は文化背景で形成された共同体という違いがあります。
Ⅴ 文法
毎年、文法の書き換え問題、並べ替え問題が出てきます。今回は(a)~(c)は書き換え、(d), (e)が並べ替えになっていました。
(a) Lasst hier keine Wertsachen zurück!
(君たち、ここに貴重品を置いていかないで!)
こちらは、命令形の作り方と分離動詞の扱い方が鍵になります。
zürucklassen(置いていく、残す)は分離動詞なので、主文で変化させる動詞になった時は基本部分の動詞だけが文の2番目に来ます。
(b) Ich lerne viele Vokabeln, um nicht dauernd das Lexikon zu benuzen.
(ずっと辞書を使い続けないようにするために、私はたくさんの語彙を覚える。)
こちらは、定形後置が分かっているかどうかが重要です。副文のみならず、zu不定句や関係代名詞などでも出てきます。なお“um~zu”は、英語での”in order to~”(~するようにするために)という表現に当たり、目的であることを強調します。
(c) Ich hätte das Buch kaufen können, wenn der Laden gestern geschlossen gewesen wäre.
(もしも昨日店が開いていたならば、私はその本を買えただろうに。)
「接続法Ⅱ」というものが出てきましたが、これは非現実を表す用法を持つ動詞活用です。なので、元の文の「本が買えなかった」というものを反対にして接続法Ⅱを使うことでも表現できます。なお、過去の出来事を表すため、完了形を接続法Ⅱにする必要があります。
(d) Dabei handelt es sich um die Balance von Wirtschaft und Sicherheit.
(その際には経済と安心のバランスが重要です。)
ここでは熟語表現“es handelt sich um ~”(~が重要である)というものを軸にして考えればよいです。副詞dabei(その際に)が先頭なので、動詞handeltの位置が2番目になるようにしています。
(e) Diese Frage ist von vieler Wissenschaftlern untersucht worden.
(この問題は多くの科学者たちによって研究されてきました。)
この問題は受動態と現在完了が合わさったものです。現在の受動態の文章
Diese Frage wird von vieler Wissenschaftlern untersucht.
に対して、現在完了の変化を加えた形です(werdenはsein支配)。ただし、動詞werdenは過去分詞形が、通常はgewordenですが、受動態を表す場合はwordenになることに注意が必要です。
また細部になりますが、vonの後は3格になります。しかしそれにより次の2点ほどの落とし穴が発生します。
まずは「vielが語尾変化をするかしないか」です。viel(多い)は可算名詞(リンゴなど)を修飾するときは語尾変化し、不可算名詞(水など)を修飾するときはそのままということです。
次は、複数形の3格では原則「名詞(+n)」の形になるということも、他に注意が向いて忘れそうになりますので注意してください。
予想配点
公式の発表は無いですが、差し替え部分(=大問4,5)で40~45点分があると考えられます。というのも英語全体で120点からリスニングの30点を引いて、残りの半分に相当するからです。しかし、大問1,2(要約、作文など)に傾斜の配点がされている場合は40点分まで減る可能性もあります。なので40点の場合で計算してみました。
大問4 (1)4点 (2)3点 (3)3点 (4)5点 (5)5点
大問5 4点×5